はじめに
戦前の日本では内務省によって図書などの検閲が行われていた。今回、私が古本市や日本の古本屋で購入した内務省印本=内務省に納本された書籍について、参考程度に書き置いておく。また少ししたらきちんと調べます。
なお、内務省印本に関する参考文献を簡単に以下にあげておく。
・小林昌樹「国立国会図書館にない本 内務省納本雑誌との出会い」『国立国会図書館月報』673、2017.5
dl.ndl.go.jp
・「内務省委託本」調査レポート、千代田区立図書館
www.library.chiyoda.tokyo.jp
架蔵内務省印本の紹介
初めて手に入れた内務省印本は、下の写真のものだ。
・黒本植『続花守集』(稼堂先生著書刊行会、昭和11年7月20日)
黒本植は漢学者で黒本稼堂ともいう。五校の教授などを勤め、夏目漱石と交流があったそうだ。稼堂はこの年の11月15日に79歳で亡くなったそうだ。
黒本稼堂とは - コトバンク
この本は五反田の古本市の一階ガレージの外の箱に入っていた。あたしのツイートを見ると、2020年12月18日に買ったみたい。残念ながら値段の紙は取ってしまったので正確な値段は思い出せないが、数百円ほどで買ったことは確か。見つけたときはすごい嬉しかった記憶がある。
まず表紙を見てみると、題箋の右隣に内務省印が見える。「内務省/11・7・20/普通出版」という青丸印。さらに右下にはチェックマークがある。このチェックマークの意味はわからず。
一ページめくった見返しの下部には、斜めに押されたハンコがある。残念ながらあたしでは読み取れないが、この本を担当した検閲官のハンコなのか?(読める方募)
さて、内容を見ると、赤鉛筆でマークがついていた箇所がある。上の写真は一例だが、この三種類のマークが所々にあった。ここが検閲官が気になった箇所なのだろう。天皇や神社に関係しそうな箇所に多く見られ、不敬かどうかをみていたのかな。
また一か所だけ文字が書かれている箇所もあった。意味はよくわからんね。
このように見ていくと、この『続花守集』は検閲に使われた正本であると考えていいだろう。非常な貴重な資料じゃなかろうか。
次に紹介するのは
・『蕗原』三巻五号、昭和12年12月20日、蕗原民俗研究会
蕗原民俗研究会は民俗学者の竹内利美が代表の研究会だ。
これは日本の古本屋で、2000円で購入した。
表紙を見ると、左上に「納本」という字が、その右横に「内務省/12・12・20/出版雑誌」という青丸印がある。
『続花守集』と違い、赤鉛筆によるマーク等はなく、検閲に使用されなかった副本であるかと思う。
次に紹介するのは
・『遠江郷土研究會誌』第二號、遠江郷土研究會、昭和6年4月16日
静岡県の研究會で、この号は120部印刷された。
NDLオンラインには、12号がインターネット公開されている。
日本の古本屋で2000円で購入した。
ndlonline.ndl.go.jp
表紙には、「内務省/6・〇・〇2/正本」と青丸印がある。残念ながら日付の部分はかすれていて読み取ることはできない。また、『蕗原』と同様、赤鉛筆によるマーク等は確認できなかった。
この資料の最も特徴的な部分として、青丸印の「正本」とある部分であろう。前掲の小林氏の図を参考にすると、正本は検閲に使用され、東京の各図書館に委託された。いわゆる内務省委託本であり、本来はどこかの図書館に委託されると考えられるが、
ただ、委託本も交付本も図書のたぐいがほとんどで、大量にあったはずの新聞、雑誌の納本現品が正本、副本ともどこへ行ってしまったのかはほとんど問われないままであった。 小林昌樹「国立国会図書館にない本 内務省納本雑誌との出会い」『国立国会図書館月報』673、2017.5
とあり、雑誌であるこの資料は図書のように図書館に委託されず、どこからともなく流れ出たものではないか思う。
まとめ
ということで、架蔵の内務省印本の紹介を行った。『続花守集』については検閲の跡がみられる資料であり、大変貴重なものではないかと思う。
また、『蕗原』と『遠江郷土研究會誌』は、各図書館に収蔵されず、捨てられた可能性が高い雑誌の生き残りとして貴重なものといえる。
これはまったくの妄想だが、小林氏の論文には、主題が民俗に偏っていることから同一人物が所有していたものではないかとあるが、これらの雑誌も民俗関係の雑誌であり、あたしはネットで購入、小林氏は古本市で購入という違いがあるが、もしかしたら同じ人が持っていたかもしれないね(重ねてまったくの妄想ですがね)。
いずれにせよ、内務省印本なんて一般市民の世界にはなかなか現れないものだから、買えてよかった。